ママには最適
私はルート配送ドライバーの仕事をしている。
もともと専業主婦だったのだけど、育児がひと段落し、家計の足しにと思ってこの仕事に就いた。
ルート配送ドライバーは勤務時間を選ぶことができ、回るルートも決まっていて、私の会社では残業もほぼない。育児中としてはとても都合の良い仕事だ。
仕事は、あるチェーンの各店に荷を届けるというもの。研修中は先輩社員が運転する横に座り、ルートや仕事の手順を覚えた。
私が付いた先輩は、私より若いけれど、私より結婚歴も育児歴も長い女性だった。だから私も安心して仕事についていろいろ教わることができた。
その先輩は自分でも「おいしいものに目がない」と言っていたが、確かに運転席の横に座っていても「あの角のケーキ屋さんは季節限定がとてもおいしい」とか「あそこのラーメン屋さんはこってりスープだけど後味スッキリで大好き」とか、いろいろおいしいお店情報を教えてくれた。
ソワソワセカセカ
そんな研修期間中の水曜日、先輩がなぜかソワソワしている。
車両点検や荷積みなんかもいつもよりセカセカと急いで済ませ、急ぐようにトラックを発進させる。
担当ルートを回り、私たちのトラックは得意先の1つに着いた。この店舗の横には、オシャレな和菓子店がある。それがいわば見印。
私は入り口横の勝手口から店員に荷を渡し、伝票を切る。
トラックに戻ると、先輩がいない。仕方なく運転席で待っていると、少し上気したような顔で先輩が乗り込んで来た。手にはお店の包みを持っていた。開くとシュークリームだった。
「ここ和菓子店だけど、水曜日には特別にシュークリームを作ることがあるのよ」と、先輩はうれしそうに話す。
そして「あなたがこのルートの担当になると知って、ぜひ教えなきゃと思って」と息を弾ませて続けた。
そこで小休止となり、シュークリームをおいしくいただいた。毎日の決まったルートにも、こういう「回り道」があってもいいのかもしれない。