甘党
俺は子どものころから甘いものに目がない。
大人になってからも酒はほとんど飲まないが、ケーキやお菓子は大好きだ。
それでケーキ運送を得意とする運送会社に就職して、ケーキを運ぶトラックドライバーになった。
ただ、学生時代はパティシエにでもなろうかと真剣に考えた。それでレシピを見ながら自宅でケーキを作ってみたが、全然楽しくないし、できたケーキも全くおいしいと思えなかった。試しに家族にも食べてもらったが、味はそれなりに良かったらしいので、ケーキ作りの才能がないわけじゃなかった。
ただ、楽しくなかった。
何もケーキを作るだけがケーキに関わる仕事じゃない。大手の洋菓子メーカーに勤め、宣伝とかをやっても良いと考えた。だが、大手だと、必ずしも自分が望む部署に行けるとも限らない。もしかしてケーキに関係ない部署に配属されるかもしれない。
大切な存在
まあ、選択肢は他にもいろいろあったが、紆余曲折があって結局、ケーキを運ぶトラックドライバーになった。
なってみると、これが結構大変だった。何せ運ぶのは鮮度が大事なケーキなので、当然冷蔵設備のあるトラックに乗る。しかし、これは思った以上に管理が大変だ。荷の出し入れも素早くやらないと、庫内の気温が上がってしまう。夏場は特に大変だ。
ただ、これが意外とイヤにはならない。まさに「愛する存在を大切に扱う」という気持ちなので、自然と毎回真剣に仕事をすることにもなる。当然、トラックもていねい、おだやかに運転する。鮮度が命のケーキなので迅速に運ぶことも大事だが、迅速に運んだからと言って、ケーキが崩れたり、つぶれたりしたら意味がない。
このていねいな仕事振りは、会社からも高く評価されている。
得意先はいろいろなケーキ店、洋菓子店なので、街のそういう情報にも詳しくなった。仲良くなったパティシエもいる。
甘いものの食べ過ぎは健康に良くないので、極力食べ過ぎないようにしているが、毎月1日だけ、思い切りケーキを食べまくる。まさに至福のときだ。