原風景
子どものころにテレビで見た、忘れられない光景がある。
広い広い荒野の1本道を、砂ぼこりを立てながらどこまでも進む大型トラック。何時間走っても周囲の景色が変わることはない。その道を、ただひたすら走る。
これぞ男のロマンだと思った。
私は女の子だったけど、どういうわけかこの「男のロマン」に弱かった。ロマンを感じさせる男に弱かったンじゃなくて、自分が「男のロマン」を体感したかった。
と言っても、私はいわゆるトムボーイじゃない。だから「男のロマン」ではなく「人間のロマン」と言っていいかもしれない。
そんなわけで、中学生から高校生になるころにはトラック運転手になりたいと真剣に考えた。子どものころに見た光景は、広大な大陸っぽかったので、オーストラリアとかアメリカにも憧れた。
もちろん両親、友人は「アホか」って反応。
哀しきニッポン
しかし、トラック運転手になりたいと思う私の心を止めるものなんてありゃしない。
トラック運転手になりたくて、なりたくて、なりたくて2年前に運送会社に就職し、ほどなくして大型免許も取得。いよいよ今年の春から大型トラックを運転している。
そりゃ、長距離は走るけどアメリカ大陸でもオーストラリア大陸でもなけりゃ、30分ごとに景色が変わっていく、島国ニッポン。
乱暴な運転をするワゴン車とかも多くてヒヤヒヤすることもある。街中で見かける学生らしき若者の礼儀知らずなバイク、スクーターも困ったもの。
でも、同僚や仲間のトラック運転手たちは、びっくりするくらい紳士だったりしてびっくりする。
仕事にも慣れてきて、ヒマなときにネット検索したりすると「トラック運転手は他の職種で使い物にならなかった人間のはきだめ」だなんて書き込みも見つける。私は他の職種に就こうとしたことがないので自分が他の業種で使い物になるのかどうか分からないけど、悲しくなる。