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タクシー運転手 体験談

昼間の幽霊

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停まらないタクシー

俺はこの道10年以上のタクシードライバーだ。
夏によくやる心霊番組で時折、タクシードライバーの体験談が紹介される。俺は、心霊番組は好きだが、本物の心霊体験は苦手というか、できれば避けたい。
タクシードライバーには深夜勤務もありがちだが、俺は今まで幽霊を乗せたとか、そんな体験は一度もなかった。その日までは。
その年の前年、母親が亡くなった。60代前半だったので、早すぎる死に大きなショックを受けた。その喪失感からか、歩道からタクシーを呼び止めるために手を挙げる人がいても、ついつい見過ごしがちになった。

母の面影

いかん、いかん、今は仕事に集中しなきゃ。
そう思ってタクシーを走らせていると、目抜き通りの歩道で手を挙げている女性の姿を確認できた。平日の真っ昼間のことだ。
幸運にも、俺の前を行くタクシーが気付かずに通り過ぎたので、俺はその女性の前にタクシーを停め、後部ドアを開けた。
女性は音もなくタクシーに乗り込み、「〇〇デパートまで」と告げた。
そのデパートは母親が好きで月に1回は訪れていた店だった。女性を乗せたところから10分ほどの場所だ。
女性を乗せたときから気になっていたことがあった。年恰好が亡くなった母親とそっくりだったのだ。

沈黙

真っ昼間に幽霊でもあるまい。
そう思って俺はタクシーの運転に集中した。それでも、何となく後部座席が気になる。バックミラーを見ても、顔はハッキリ分からない。
「最近、ようやく暖かくなってきましたね」。俺はさりげなく話しかけてみた。応答はない。乗客の中には、静かに過ごしたい人も多い。俺も黙ることにした。
やがて目的地のデパートに到着した。
精算するためにメーターを確認し、後部座席を見ると、誰もいなかった。しばらく動けなかった。
一体何が起こったのか。俺は女性を見掛けたところから記憶をたどった。確かに女性を見て、女性を乗せ、女性から行き先を告げられた。
その女性が忽然と消えた。そのころはまだドライブレコーダーを搭載していなかったので、女性を乗せた証拠もなかった。
会社に報告はしなかったが、先輩に相談してみた。「ボーっとしてて白日夢でも見たんじゃないか」と言われた。ただ、別の先輩は「お前はここんとこ仕事に身が入ってなかったから、お母さんが心配して見に来たんだよ」と言った。
言われてみると、心霊体験にありがちな“恐怖”を感じなかったことを思い出した。
何か吹っ切れた気がした。

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