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タクシー運転手 体験談

和紙は舞い降りた

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お客さんの顔

僕はタクシードライバーの仕事をしている。
タクシーにはいろいろなお客さんが乗る。昼間のビジネス街で乗せるのはビジネスマンやビジネスウーマンが多いし、夜明けの繁華街なら水商売のお兄さんやお姉さんが多い。
ただ、昭和の昔なら、タクシードライバーもお客さんとプロ野球の話題で盛り上がったようだけど、今は皆さん、タクシー車内では静かに過ごしたい人が多くなり、お客さんと会話することも少なくなった。
お客さんはタクシードライバーの顔なんて、ほとんど覚えたりしないだろう。
一方、他のドライバーはどうか知らないが、僕はなるべくお客さんの顔を覚えようと努力する。毎日、何人ものお客さんを乗せるので、実際には覚えるのは無理だけど、せめて努力だけはする。
そんなことは今までなかったけど、ドラマなんかでは刑事がタクシードライバーに聞き込みすることもあるから、そういうときに備えて、ってわけではない。

あわよくば

1つには、お客さんの心をつかむため、と言うと大げさだけど、タクシードライバーはお客さんが「静かに過ごしたい」と思っているか「会話を楽しみたい」と思っているかを早めに見極め、ふさわしい接客をしなければいけない。顔を覚えていれば、2度目に乗ったときに顔を見て「この人は会話を楽しみたいタイプ」と、すぐ分かって接客もよりスムーズにできるかもしれない。
もしかしたら「ああ、この間も乗ってくれましたよね」なんて言えば、気分を良くしてくれて、うまくいけば常連さんになってくれるかもしれない。ま、同じお客さんを2度乗せるなんて、滅多にないけど。
もう1つは、事件なんかがあったとき、顔を覚えておくと証言もできるってこともある。ただ、これも滅多に遭遇しないし、第一今はドライブレコーダーが付いているから事件のときは動画が証拠になる。
さらに、お客さんが忘れ物をしたときも、その後でまた僕のタクシーに乗ってきたら「これ、忘れ物です」と言って差し出し、気分を良くしてくれて、うまくいけば常連さんになってくれるかもしれない。まずそんなことは起こらないけど。

勤務明けの清掃

忘れ物と言えば、勤務明けの早朝、後部座席を掃除していて、僕の手元にふわっと舞い降りてきたものがあった。手に取ると、ティッシュのような1枚の紙だった。手に取ると、かなり高級そうだったので、ただのティッシュではなさそうだった。
営業所に入り、ベテランのドライバーに見せたら「こりゃ、和紙のティッシュだな。高級品だぞ」と言う。それから僕の不安な表情を見て「まだ使っていないティッシュだけど、だからって、ティッシュはティッシュだから持ち主が必死に探しに来るようなもんじゃないよ」と笑った。それで多少ホッとしたが、一応、他の忘れ物と同じように営業所で一時預かることにした。
もちろん、和紙のティッシュに関する問い合わせはなかった。それでも僕は、いったいどんな人が忘れていったのか、その日のお客さんの顔を思い出し、空想にふけってみた。夜明けの繁華街も通ったので、クラブのママさんも乗せた。しかし、昼間に乗せた和服姿の高齢な女性かもしれない。案外、ビジネス街で載せたビジネスマンのオジサンってこともあり得る。
とにかくタクシーにはいろいろなお客さんが乗ってくる。

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