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トラックドライバー 体験談

トラックが凍る日

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悪魔の峠道

これは、昔トラック運転手をしていた祖父から聞いた話です。
その祖父が若かったころと言うので、もう50年近く昔の話ということになります。祖父はまだ20代の若者でした。
祖父は長距離トラックの運転手をしていて、それはある年の10月、ようやく残暑を感じさせなくなり、秋の訪れが風景にも現れていたころだったと言います。
祖父はその日、A県からG県へ青果を運んでいたそうです。朝には市場に到着するように、真夜中、トラックを走らせていました。目的地までの1本道はやがて山の中に入っていき、曲がりくねった峠道を通ることになりました。
実はこの仕事は体調を崩した同僚に代わって引き受けたもので、その道は祖父にとっても初めての道だったそうです。若く、まだ経験も浅かった祖父は、とても心細かったと、話してくれました。

地獄に降る雪

あらかじめ地図で確認したルートを思い出すと、もうそろそろ山の中を抜け出しても良いころなのに、トラックのヘッドライトに照らされて浮かび上がる道は、くねくねと曲がりくねった峠道のまま。「もしかして道に迷ったのか」と思えて仕方なく、何だか腹の底に重たい鉛が沈み込んでいくような気持ちだったそうです。
やがて、ヘッドライトに何やら空から降ってくるものが浮かび上がるようになりました。「何だか雪が降っているみたいだな」と思ったものの、いくら山の中でもまだ雪が降るような季節ではありません。しかし、フロントガラスには、明らかに雪が付着し、溶けていくという、真冬の雪の降る日によくある光景が見られるようにもなりました。
祖父は心細い気持ちから不安へと変化し、このころには「怖い」とさえ思うようになっていました。

死神が残した霜

やがて、そのヘッドライトに、何やら人影のようなものが浮かび上がるのを見たそうです。しかし、季節外れの雪で神経が参っている中、しかも夜道だったので、人影の正体をしっかり確認している余裕はありませんでした。
それでも、トラックがその人影を横切るとき、ふと視線を移して見てみたそうです。その人影は、冬物の着物を着こんだ、髪の長い女性だったそうです。それがもし、むくつけき男だったら「山男がこんな時間になんで散歩しているんだろう」くらいにしか思わなかったかもしれませんが、何しろ女性に見えたので、思わず背筋に冷たいものが走るのを感じたとか。
しかし、その人影の横を走り抜けた途端、目の前の景色は一変。さっきまでしんしんと降っていたはずの雪はピタリと止み、しかも山の中の峠道ではなく、畑の真ん中の道を走っていたそうです。
「疲れて、起きたまま夢でも見たに違いない」と、自分に言い聞かせたものの、市場に着いてトラックを見てみたら、下のほうに霜が付いていたとか、いないとか。

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