運転技術とは言うけれどその中身っていったい?
俺はプロのドライバーだから運転技術はもちろんバツグンだぜぃ!と自慢しているそこのあなた。じゃ、聞くが、その運転技術ってぇのはいったい何なんだい。
そう聞かれて「積荷や乗客にたとえわずかでも負担をかけない運転ができること」と答えられる人こそプロ中のプロと認めましょう。プロドライバーと呼べる人は運転者自身だけでなく、運転者+クルマ全体&積荷や乗客までの一体になった隅々にまで神経の行き届くドライバーのことを指す。
ドライバーは快適なシートに納まっており、ハンドルやアクセル、ブレーキなどを操作するのも自分がやっているので、次の操作・動作は予測が効く。なので、左折・右折に備えて重心移動もできるし、急加速のGもへいちゃらだ。そんな時に限って「俺って運転上手い」なんて間違って自慢げになるから始末におえない。
しかし、これが運転に一切関与しようもないタクシーの乗客などは急加速や急ブレーキなどに備えられるわけがなく、ましてお年寄りなどは、特に若いドライバーの場合はかなりなストレスを受ける。まだ乗せているのが人なら身構えたりもできようが、物言わぬ積荷なら荷台や荷室の中でひっくり返ったり、最悪、車体ごと横転して大事故にもなりかねない。
積荷やお客様は常に連続した「地震」にさらされている
時々、防災訓練なんかに登場する「起震車」(人工的に地震を体験できる装置を荷台に設定した特殊車両)で試してみるとよく分かるが、自分が部屋の中で静かに椅子に座っている状態なら何も動かないから問題ない。
しかし、震度2・3あたりではどうだろう? 地震体験ではなく動いているトラックと想定すると、ちょうど信号待ちから静かにアクセルを踏み込んだ感じがそれにあたる。急発進や急ブレーキなどは、震度7の激震に相当する。バランスをとることができる人間で、予測できるならかろうじて立っていられるが、家具などは確実に倒れる。起震車ではチェーンが付いているが、荷の固定が不十分なら倒れたり吹っ飛んだりする。
ちょっとした凸凹道やマンホールの蓋を乗り越える場合などは震度4から7程度の上下震動。曲線半径100mの、左に曲がるカーブを速度50km/h で走った場合には積荷が右側方向に引っ張られる、震度5に相当する遠心力を受けることになる。同じカーブを速度60km/hで抜ける場合は震度6の烈震の加速度を受ける。
タクシーの場合などは、シートに座ってるからまだいいようなものだが、やはり理論的には同じこと。巡航運転部分は極力速度変更しないほうがいいし、速度変更・急加速・急ブレーキ・カーブ走行ではよほどきめ細かな気配りが必要だろう。タクシーで会社の重役専用車がある場合、クルマの仕様もワンランク上だがドライバーも超ベテランが起用される。
トラックで、自称「運転技術はもちろんバツグン」と豪語する人間には、一度閉め切った荷室に乗ってもらい、その人の普段の運転技術を真似たドライバーに運転してもらうというのはどうだろう。いや、こういった「積荷の身にもなってみよう」体験は机上での「安全講習」なんかよりもずっと有効な、体で覚える安全運転講習になるのではないだろうか。