時間的余裕
三陸は青森、岩手など、東北地方の北東あたりを指す呼称で、三陸沖で獲れる新鮮魚介を使った絶品料理で知られる三陸海岸には、日本有数の漁港が集まっている。
長距離のトラック運転手にとって、東北は積雪の多い冬が厄介だなあという思いもありながら、やはりこの海の幸を渇望するゆるぎない思いもあったりする。
長距離トラックの運転手として働く僕も、その思いは同じだ。ただ、その地方に行くからと言って、必ずしもご当地グルメを味わえるわけではないのがトラック運転手の悲しい現実。その「場所」には行っても、ご当地グルメを楽しむ「時間的余裕」がなければ、その思いも単なる「絵に描いた餅」でしかない。簡単に言うと「食べられない」。
僕も三陸海岸には今まで何度か行った。最初に行ったときは、何とか海鮮丼を堪能できた。
しかし、その後はどうにも「時間的余裕」がなく、地元有名店ではなく、途中のドライブインで「とりあえず食べる」感じ。いつか行ったときは、コンビニ弁当で終わってしまった。
万難排す
そんな僕が勤める会社に、仕事で遠方に行ったときには万難を排してご当地グルメを堪能してくる男がいる。グルメスポットで必ずトラックを停める、つまりブレーキをかけるので、そのまま「ブレーキ」という安直なアダ名が付いているほど。もちろん、陰で言っているだけだけど。
そいつは三陸海岸にも何度も行っているが、必ずきちんと名物料理を食べてくる。ウニ丼、フカヒレの姿煮などなど。
聞けば、遠い地方のうまいものを食べたいから長距離のトラック運転手になったのだとか。まさにその初志を貫徹しているわけだ。
そしてもちろん、ご当地グルメを食べまくるからと言って、納品時間に遅れたりすることはない。
荷積みなどの作業の効率化を常に工夫し、どのルートが一番早く目的地に着けるかという情報にも絶えずアンテナを張り、あらゆる努力を積み重ねて「時間的余裕」をねん出しているらしい。頭が下がる。