昔話
これは僕が小学5年生くらいのころの話。
僕には1つ歳上の兄がいて、ドライブ好きの父が、僕たち兄弟を乗せて、よくドライブに連れて行ってくれた。
行き先は、ショッピングセンターだったり、景色の良い丘だったり、広い公園だったり、いろいろだったが、今ではもうあまり覚えていない。しかし、ドライブ中に経験した不思議なできごとは、今も忘れない。
僕らがドライブに行くとき、たいていは母は留守番していた。父は「これは男だけの楽しみだ」なんて言っていた。実際、行った先で入った喫茶店では、デザートではなくコーヒーを飲ませてくれたりして、僕らはちょっぴり大人になったような気分を楽しんだものだ。母が同行していたらコーヒーなんて飲ませてくれなかったかもしれない。
3人で乗用車に乗るわけだけど、兄はやはり長男だからか助手席に乗せてもらえていたが、僕は後部座席だった。父は運転席で思い切り座席を後ろにずらしていて、その後ろは狭くなってしまうので、僕は自然と兄が座る助手席の後ろに座っていた。
そこは周りを山に囲まれた田舎道だったと思う。僕たちの車の前方にトラックが走っていた。そのトラックは、今まで見たことのないようなデザインだった。SF映画に出てくる、流線形の未来の車をそのままトラックにしたようなデザインだったので、僕たち兄弟はお互いに「おおっ!」と声を上げたほどだ。
未来の車
とは言え、父はそんなことにお構いなしにスピードを上げて行った。僕たちの車はぐんぐん未来の車みたいなトラックに近づき、そのまま追い越して行った。
兄が父に「今のトラック見た?」と聞いたが、父は「何を?」と全く無関心。それだけ運転に集中していたのかもしれない。
そうして2~3分走っただろうか。前方にまた車が走っているのが見えてきた。さらに近づくと、驚いたことにそれはさっき見た、流線形の未来的なデザインのトラックだった。
僕らは父に「ねえ、あれ見て! あのトラック」と叫んだ。その声に、前方を確認した父は「すごいトラックだな」と、感心したようだった。
それでもあまり気に留める様子もなく、また今度もそのトラックを追い越して先へ進んだ。運転席を見てみたが、窓はスモークガラスで中が見えなかった。
一体、あのトラックは何だったのだろう。他で見たこともない同じデザインのトラックを、2回も続けて追い越すのも変だ。あんな特徴的なトラックがたまたま2台、同じ道を走っていたのだろうか。僕らの車か、もしくはあのトラックが時間をループしたとしか思えない。
また、あのデザインのトラックはあれ以来、見たことがない。雑誌などでも見掛けなかったし、大人になってネットで探しても見つからない。