先輩の武勇伝?
自分も下請け会社の傭車のドライバーに就くようになって久しいが、近ごろちょっと「社会的」にアタマにきていることがある。いわゆるベテラン少し手前の世代の先輩トラックドライバーの発言がどうも引っかかる。
それは、われわれ若手の(と言っても20代の後半なんだけど)ドライバーへの物言い。曰く「俺たちは少々寝なくても長距離をこなしたもんだ。近ごろの連中ときたら、何かというと、休みをちゃんと取りたいと言う。普通の会社員じゃあるまいし、トラックはどこをどう走ろうが時間までに荷物を運ぶしかない。それをグダグダ言うなんて甘いんだよ。この業界で生き残りたくないのか」と。
ここで「甘い」と言われてるのは僕のこと。まったくのホワイトな運送会社はなかなかないとは思うけど、そんな中でも平均睡眠時間は4時間から6時間だ。けど、その先輩は睡眠2・3時間でも長距離やっちゃうし、2日間寝ないで走ったこともあるんだぞ!と自慢する。
先輩は漁港から距離の離れた市場に鮮魚を運ぶ「追っかけ」もこなす。1番セリに間に合った謝礼に金一封を受け取ることもしばしばだとは言うんだけど、睡眠もろくにとらずに制限速度無視しての「おっかけ便」は、僕は恐くて受けられない。
僕は「根性なし」なんかじゃないゾ!
下請けの会社としては、儲かるからそりゃそんな先輩の活躍(?)はありがたいに決まっている。社長も「あんまり無理するなよ」とは口では言うが、ニコニコ顔で無茶な仕事を回してくる。
そんな時、いやな顔でも見せようものなら「なーんだ、できないのかあ」と露骨に嫌な顔をされる。さすがにこのご時勢「イヤなら辞めるか?」までは言わない。そこで無理強いしたら事故を起こした場合、会社の責任になることは分かってるから。
なんだかこんな環境はまるで、経験ないけど戦争中みたいという気がしてしょうがない。戦争はいけないことだし、だれも望まないはずなのに、異を唱えると「非国民め」と非難される。トラックドライバーの業界もそれと似たようなもの。「休みたい」と言えば受け入れてはもらえるが、その代わり「根性なし」のレッテルが貼られる。
睡眠時間も規定以下なのに、それを分かっていながら「やってくれるとありがたい」で押してくる配車担当。それを受けられないと「非国民」じゃなかった「根性なし」と言われる。僕に言わせれば、そんな環境で耐えて仕事を受けてしまうほうが「根性なし」。そんな労働条件を容認している人こそ、自分で自分の首を絞めている「非国民」だと思う。
先輩のような人も、付き合ってみるととてもいい人。それどころか、人が良過ぎる。無理な仕事も断らないし、どう見ても危険なおっかけもこなす。でも、そんなことではいつまでたっても事故はなくならないし、ドライバーが自分の首を絞めていることになりはしないか。