運じゃない
タクシードライバーとして収入を増やすためには、できるだけ多くのお客さんを乗せる必要がある。できれば、ひっきりなしにお客さんが見つかるとありがたい。できれば長距離のお客さんがいい。
お客さんを見つけるため、我々タクシードライバーはさまざまに知恵を働かせる。僕にタクシードライバーの仕事を教えてくれた先輩も「タクシードライバーに運が良いとか悪いとかはない。ひたすら工夫と努力を続けてこそ、収入を増やすことができる」と、よく言っていた。
その先輩は営業所でも常に成績トップだったので、その言葉には経験に裏打ちされた重みがあった。
実際、僕の浅い経験からも、タクシードライバーの仕事は運だけでどうにかなるものじゃないと分かる。
どうにかなるものではないけど、運がまったく関係ないわけでもない。
運が良かった
こんなことがあった。
その日、僕は夕方から連続して5人のお客さんを乗せることができたんだけど、それもお客さんを降ろした場所で、1メートルもタクシーを動かすことなく、次のお客さんが乗ってくるということが連続した。いくら何でも、そんなこと滅多にあるものんじゃない。少なくとも僕はそれまで経験したことがなかった。
何しろ、自分でお客さんを探す手間がいらなかったので、とても楽に稼ぐことができた。5人とも、そこそこ長距離だったので、何だかその日は神様に愛されている気がしてきた。
確率にしたら天文学的に少ない数字になるかもしれない。
次の日、同じ場所に行ってみたけど、もちろん、奇跡は起こらなかった。