急がば回る
僕は高校を卒業後、いろいろあって今はタクシー運転手の仕事をしている。自分としては遠回りをしたような気がしている。
もともと、子どものころからタクシー運転手に興味があった。タクシー運転手が主人公の2時間サスペンスを見たからかもしれない。仮面ライダーやウルトラマンに憧れるような感覚で、事件を解決する主人公に憧れた。宇宙人でもサイボーグでもない自分は仮面ライダーやウルトラマンにはなれないが、タクシー運転手ならなれると考えても不思議ではない。
しかし、高校を卒業してすぐにタクシー運転手を目指したわけではない。まず運転免許を取るべく、自動車教習所に通ったんだけど、修了検定に落ちたり、卒業検定に落ちたり、結構苦労を重ねて「ようやく合格した」ので「職業ドライバーに向いてないのかな」と思ってしまった。
それで「そういやタクシー運転手の仕事は接客業でもある」と聞いたことがあるのを思い出し、まずはそっちに進むことを考えた。それで飲食店やアパレルショップの店員なんかもやり、その後メーカーの営業職を志した。営業も接客の要素が強い。
苦労は多いが
ただ、これは始める前から家族、友人知人の大反対を受けた。「お前は無愛想だから接客や営業は向かない」というのだ。皆から「向かない」と言われれば自分でも「そうかな」と思ってしまうが、それでも営業職に就いてみた。
すると、やはり相当苦労した。最悪というわけではなかったが、心の中で「何か違う」という思いが強くなった。
それで初心に戻り、タクシー運転手への転職を決めた。これまた家族、友人知人からは猛反対を受けた。
「お前は運転も下手だし、人当たりもうまくないから絶対に向かない」と言うわけだ。
しかし、他から「向かない」と言われて、その意見に従って自分の仕事を決めるのも嫌な気がした。大事なのは「向くか向かない」ではなく「やりたいかやりたくないか」だと思った。
こうして第二種運転免許を取ってタクシー運転手となった。なってみると確かに苦労は多い。
しかし、教習所で苦労した分、運転は慎重なので、お客さんから「運転がていねい」とほめられたことがある。接客に自信がない分、これまた一所懸命、お客さんの気持ちを読もうと努力する。これも功を奏しているようだ。