それを感じたら
車の運転が好きで、子どものころから憧れていたトラック運転手になった。
トラックの運転が楽しくて仕方がなく、それだけに仕事を仕事とも思わず、荷を運びまくって収入もグングン上がった。
後は結婚だ。
仕事があり、金もあり、これで家族もできれば、昔から夢見ていた「思い通りの人生」というヤツを送れることになる。
しかし、仕事が楽しすぎて仕事ばかりしていて、女性と出会う機会がない。会社にも事務員として女性はいるし、荷の届け先にも女性はいるし、学生時代から知っている女性も何人かはいたけど、結婚相手となるとちょっと違う。価値観とか何とかじゃなくて、もっと直感的なものが足りなかった。
そんなことを先輩運転手に相談したら「足りないのは“あれ”だろう。大丈夫だ。そのうち“あれ”を感じさせてくれる女性と出会えるはずだ」という。
何だか分かったような、よく分からないようなその答えに「何を根拠にそんなことを言えるんですか?」と聞くと「俺だってそういう女性と出会えたんだ。きっとお前も出会えるさ」ということだった。
はじまり
しかし、ときは無情に流れ、とうとう独身のまま40歳を迎えてしまった。
そんなとき、同窓会に参加することになった。それも中学校の同窓会で、今まで仕事に熱中して全く見向きもしなかったのだが、ふと気が向いた。
ただ、そこで運命的な出会いがあった。いや、再会というべきだろう。
その女性は子どものころ、近所に住んでいて親同士も仲が良かったこともあってよく遊んでいた女の子だった。そんなこともすっかり忘れていたが、再会して昔の思い出がまざまざと甦った。
いたずらっぽく笑いながら彼女は「昔の約束、忘れていない?」と言ってきた。
そうだ、思い出した。中学1年生だったか、13歳のとき、もし27年後、40歳になってもお互いに独身だったら2人で結婚しようと約束したのを。
彼女の薬指に指輪はなかった。