そよ風は笑い
長距離トラックのドライバーは、仕事でいろいろな地方に行く。
海岸線を走ることもある。海は波打ち、岸には潮が満ちている。
波の切れ間が浮かんで沈み、沈んではまた浮かぶ。
空は微笑み、海は悠然と波打つ。
誰が負けて誰が勝つかは神のみぞ知る。トラックが走る道はどこまでも続き、もう何日も同じ景色を眺めているような気がしてくる。
波が地上の争いごとをすべて押し流してくれるようだ。
そよ風は笑い、寂さが募る。
笑い飛ばして
長距離トラックのドライバーの道連れは、胸の奥底に眠る心意気だけだ。
海岸線を走ると、波は岩に当たって砕け散るのが見える。
名声も財産も持たないトラックドライバーをあざ笑っているように、吹きすさぶ風の音が聞こえてしまう。
誰が負けて誰が勝つかはトラックドライバーには分からない。ただ今日もトラックを走らせ、誰かのところに荷を運ぶだけだ。
荷を待ってくれている誰かのところに。
この寒々とした海岸線の風景こそ、トラックドライバーの心情なのか。
ならば、そんな心情は笑い飛ばしてやろう。