10年前の夜
俺はトラックドライバー。仕事は長距離なので、真夜中に人里離れた寂しい道を走ることもある。
あれは10年も前のことだったろうか。
その夜も俺は真夜中に人里離れた寂しい道を走っていた。とは言え、走り慣れたルートだったので、気持ちは楽なものだった。いつも渋滞などを避けてこんな時間にここを通る。すれ違う車もほとんどないし、歩行者や自転車を見掛けることも滅多にないので、ストレスなく走れる。
後は眠気に襲われないように気をつければ良いだけだ。なんて眠気のことを考えた途端、何となく眠くなるから人間ってのは不思議だ。
近づいてきた車
眠気に襲われたときは、素直に寝るのが一番。俺は運転席を倒して仮眠することにした。
目をつぶって少しすると、後ろから近づいてくるエンジン音が聞こえてきた、気がした。もちろん、俺のトラックは道の端のほうに寄せてあるから、後続車の邪魔になることはないだろう。
しかし、滅多に車が通ることのないこの時間、この道をどんな車が走るのか気になった俺は、運転席を起こしてそれを確認することにした。
やがてヘッドライトを照らして近づいてきた車が、トラックの横を通り過ぎてそのまま走っていった。
その車、チラッと見ただけだったが、1960年代にかなり普及したと聞く、某メーカーの小型大衆車に見えた。
消えた横道
「こんなところにクラシックカー好きがいるのかな」なんて思うと、どこへ行くのか気になってトラックのエンジンをかけた。眠気は消えていた。
しばらく行くと、前を走る車は左折したように見えた。俺はその横道に入ったことはなかったが、好奇心に勝てず、後に続いた。その横道は舗装されていない砂利道だった。
少し行くと、前の車はまた左折した。何だか、どんどん寂しい道に入っていくようだった。
俺もその横道に入ってみたが、驚いたことにそこは行き止まりになっていた。何が何やら、わけが分からなかった。
しばらく茫然としていた俺は、仕方なく来た道を引き返し、元のルートに戻った。
その後、昼間にそのルートを走ったときに確認したが、そもそも舗装されていない横道などなかった。
こんなことを同僚に話すと「寝ぼけていたんだろ」と言われるだけなので、誰にも話していない。