深夜の国道で
真夜中に甘辛いものを食べたくなる。そんな経験、誰にでもあるのではないだろうか。今からお話しするのは、私の身に実際に起こった、身の毛もよだつような体験談である。
私の職業はトラックドライバー。それも長距離の仕事をしているので、真夜中にトラックを走らせることも珍しくはない。朝早くの工場などに荷を届けるために夜っぴてトラックを運転し、朝ぼらけの光が運転席に差し込むころ、荷の届け先に着き、その近くにトラックを停めて仮眠を取り、届け先の門が開く時間に間に合うようにする。
さて、その日も私は荷の届け先の早朝からの操業に間に合うよう、深夜の国道でトラックのアクセルを踏み続けていた。
猛烈な空腹感
深夜なので、普通なら眠くなる。しかし、私もプロフェッショナルなトラックドライバーの端くれ。経験も積み、睡眠のタイミングをコントロールして、一番鶏が鳴く時間までは眠気が襲ってこないように準備を整えている、はずだった。
ところが、である。いや、睡魔は恐ろしいほどに鳴りを潜め、眠くなりはしなかった。だが、代わりに猛烈な空腹感が襲ってきたのだ。睡眠という、生き物本来の欲求を満たせないとき、代わりの欲求を満たすことで満たせない欲求の穴埋めをするという話を聞いたことがあるが、それなのか⁉
恐怖で凍りついた
それとも、夕食の、甘辛ソースがかかった鶏の唐揚げが足りなかったのか。付け合わせのエビチリが物足りなかったのか。それとも、一緒に食べた、モモ肉をパイで包んで焼いたジゴ・ダニョー・アンクルートが胃袋を刺激してしまったのか。
私は努めて平静を装い、ダッシュボードを開けて食料を探した。こんなときに備え、何かしらの食料を常備しておくのがトラックドライバーというものだ。
しかし、ない！ いつもなら保存が利く菓子類なんかを入れておくのだが、今日に限ってない！
これは困った。あふれ出る冷や汗を拭おうと、ポケットを探ると、そこになぜかクッキーの入った小袋が。
救われた思いでクッキーを口に運んだ。クッキー特有のバターや砂糖の甘みが口の中に広がる、と思いきや、なぜか甘辛な風味が私の味覚を支配する。
なんだこれは？ 甘辛い夕食の後味なのか？
私の体は恐怖で凍りついていた。
やがて朝が来て、行きつけの食堂で私が食べたのは、甘辛い肉じゃがだった。