芳醇な味わい
これは我が社でも古株のトラックドライバーから聞いた昔話。
そのころ会社にはマサキ、リュウザキという仲の良いドライバーがいた。2人とも酒好きで、仕事が終わると毎日のように飲み歩いていたそうだ。
今ほど規制やルールが厳しくない時代のことだが、もちろん2人ともさすがに飲んでハンドルを握るなんてことはなく、勤務の前にはきっちりアルコールが消えるよう、飲む時間を自分たちで計算していた。
と言うか、2人はしょっちゅう一緒にいたので、飲み過ぎたり、飲酒運転にならないようにお互いに注意し合っていたようだ。
そんなある日、マサキがたまたま原酒を手に入れた。原酒というのは、アルコール度数を調整するための水を入れる前の日本酒のことだ。水を加えていないのでアルコール度数は高く、味わいが濃い。
もちろん、手に入れにくいものではないが、マサキが手に入れたのはもともとリュウザキが大好きだった銘柄の原酒だったそうだ。
罠
マサキはこの原酒を、何かあったときの「とっておきの酒」と考え、行きつけの居酒屋の女将に預けることにした。
しかし、2人の同僚のアンドウがこのことを聞きつけ、女将に「マサキに原酒を取ってきてほしいと頼まれた」とウソをつき、まんまと原酒を巻き上げてしまった。
とにかくその原酒を飲みたかったリュウザキは単身、アンドウのところへ乗り込んだが、そのまま一向に戻ってこない。そのうち、アンドウからマサキに連絡が入り「リュウザキと楽しく飲んでいるから、酒のつまみに刺身でも持ってきてくれ」と言う。
これは罠に違いないと悟ったマサキは、仁義なき振る舞いに及んだアンドウを倒して原酒とリュウザキを救うため、旧友・ピエロらと共に愛車のトラックに乗り込み、アンドウの元へ赴く。
だが闘いの末に待っていたのは、勝利と呼ぶには余りにも苦い結末だった。要するに、地面に落ちた原酒の瓶が粉々に割れ、誰も飲むことができなくなってしまったとさ。
マサキとリュウザキはその後、酒は飲めるときにさっさと飲んでしまったほうが良いと考えるようになった。