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タクシー運転手 体験談

なぜ、トランクに頼らなかったのか?

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不似合いな荷物

僕はタクシー運転手の仕事をしている。タクシーにはいろいろな人が乗ってくるので、タクシー運転手をしていると、まさに人生の縮図を見るような、興味深い人生勉強ができる。もちろん、ただ漫然とタクシーを運転しているだけでは、その勉強もなかなかはかどらない。
僕は何も勉強熱心というのじゃないが、好奇心がありあまっていて、お客さん1人1人が気になってしまう。走行中、お客さんが快適に感じているかどうかを察知することにもつながるので、この好奇心はプラスに働いているようだ。
先日も、なかなか気になるお客さんが乗ってきた。
その人は70歳前後と見られる上品そうな女性だった。本人は小柄だったが、見るからに不釣り合いな、重そうな大きなカバンを持っていた。
もちろん、僕は運転席から降りて「タクシーのトランクに入れましょうか」と声をかけた。しかし、その女性は「いいえ、結構です」とていねいに話し、その大きなカバンを抱えたまま、後部座席に乗ってきた。

放たれた冗談

僕は、恐らく目的地が近いので、わざわざトランクに入れたり、出したりする手間を惜しんだのかなと思ったが、女性が指定したのは30分くらいはかかるような場所だった。しかもそこは、僕の記憶が確かなら、近くに墓地がある場所だ。それで僕も何だか妄想が膨らんでしまった。「もしかしたらカバンの中には、何か他人に見られるとヤバイものが入っているのかも」なんてことまで考えた。
そういうモヤモヤをずっと抱えているのは体に良くない。それで僕はタクシーを発進させて3分ほどしか経っていない時点で「お客さん、大事にしているそのカバン、中に爆弾でも入っているんですか?」と聞いてみた。
もちろん冗談だ。わざと、いかにも冗談だと分かりやすい冗談を言えば、相手も気を許してくれるかもしれないと思ったのだ。何せ、70歳くらいの上品そうな女性だ。およそ爆弾などは似合わない。
ここでその女性の顔が引きつれば、それが冗談ではなかったってことで、映画やドラマにもなるのだけど。

明かされた真相

女性は「気になりますか」と答えて後、こんな話をしてくれた。
女性はちょうど1年ほど前、長年連れ添った夫を亡くしたそうだ。1周忌も済ませ、気持ちの整理もついたので、先日、夫の遺品を整理してみたという。すると、夫の書斎の物入れから、夫が集めていたらしいミニカーがたくさん出てきた。そう言えば、30年くらい前だったが、生活も苦しかったときに夫のミニカー収集癖に気付いた女性は「こんなもの集めるのはよしなさい。子どもじゃないんだから」と言ってしまった。だが、夫はそれからも女性に隠れて、こっそりミニカーを集め続けていたようだったのだ。
そんなことも知らなかったので、女性は夫の棺に、夫が大好きだったミニカーを入れてあげることもできなかった。今はまだ、この夫が大好きだったものを処分する気にはなれないが、せめて墓前に並べて夫に見せてあげようと、その一部を持ってきたという。
夫にとっては大事なものなので、自分でしっかり運びたかったそうだ。
なんだ、とても良い話じゃないかと、そう思った。

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