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トラックドライバー 体験談

深夜のドライブインで

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惹かれる思い

あれはもう20年も前の話。
俺はトラック運転手になって5年くらいで、まだ20代の若造だった。仕事は、会社のある県の倉庫と、隣の県の工場を行ったり来たりする定期便。
定期便なので、大体毎日同じ作業の繰り返しだ。途中で寄る休憩場所も決まっていた。俺が休憩場所と決めていたのは、峠道にある古びたドライブインだった。
ある日、得意先の都合で、俺は深夜の峠道でトラックを走らせることになった。そのドライブインの前を通りかかると、灯りは消えていたが、駐車場は車を停められるようになっているのが見えた。
時間には余裕があったので、俺はそこにトラックを停め、少し休憩しようと思った。トイレも使えたので、用を足し、しばらくトラックに乗らずに足を伸ばしていた。
すると、1台のダンプカーがやって来た。そのころでもあまり見なくなっていたボンネットダンプだった。
ダンプが駐車場に停まると、そこから降りてきたのも、ダボシャツに腹巻という、これまた当時でもほとんど見なくなった「トラック野郎」スタイルの兄ちゃん。
俺は同性愛者を差別する意識はこれっぽちもないと前置きして言うが、自分自身は同性愛者でも何でもない。今は結婚して子どももいる。
だが、そのときはその「トラック野郎」な兄ちゃんに何か惹かれるものを感じたのも確かな事実だ。俺は「話しかけなきゃいけない」という思いにかられ、その兄ちゃんをじっと見つめた。

邂逅

すると、俺の視線に気づいたのかどうか分からないが、向こうのほうから俺に微笑みながら話しかけてきた。聞けば、高卒で手っ取り早く稼げる仕事だからと、ダンプの運転手になったのだとか。父親は戦死し、弟や妹もいるので、自分が頑張って稼がなければいけなかったという。
戦死? 一体、何を言っているのだろう?と思いながらも、時間に余裕があるとはいえ、そろそろ出発しないと納品に間に合わない。俺はそれを告げ、後ろ髪を引かれながら自分のトラックに戻り、トラックを発進させた。バックミラーを見ると、その兄ちゃんは名残惜しそうに手を振ってくれた。
俺は兄ちゃんのことを忘れられずに数週間を過ごした。そんなとき、また深夜便の仕事が舞い込んだ。
俺は前回同様、あのドライブインにトラックを停め、ボンネットダンプを心待ちにした。果たして、あの夜と同じようにボンネットダンプがやって来た。
降りてきたのは、あの「トラック野郎」スタイル。ただ、前に会ったときは当時の俺と同じくらいの若造に見えたのに、その夜は30代くらいに見えた、気がした。
しかし、会いたかった人に会えたうれしさで、俺はそんなことは気にならなかった。前回は俺自身のことはあまり話せなかったので、今回は俺の仕事に対する不満や愚痴、将来への夢なんかを話した。
その日もあまり長居はできず、俺たちは慌ただしく別れた。

驚きの写真

その後、しばらく深夜の仕事はなかった。俺はいつもの定期便の仕事をこなしながら、心の片隅であのダンプ運転手のことを思っていた。
そんなある日、昼飯時に立ち寄った、例のドライブインで、俺は壁に掛けられた1枚の写真を見つけた。それは古臭いモノクロ写真で、店のスタッフとお客を撮影した記念写真のようだった。俺が何より驚いたのは、そこにあのダンプの運転手が写っていたことだ。
ポカンと口を開けて写真を凝視している俺に気付き、店の女将が話してくれたことが、さらに俺を驚かせた、その写真は店の開店当時のもので、昭和20年代に撮られたものだったのだ。俺は軽いめまいを覚えた。
その数日後、仕事が休みだった俺は深夜、マイカーを駆って例のドライブインに向かった。ドライブインが近づくと、周囲には霧が出てきて、着くころには霧のスープの中で車を走らせているような気分になった。
駐車場に着くと、ボンネットダンプはすでに停まっていて、その運転手はダンプの横に立ち、俺を待っていたようだった。恐る恐る近づくと、前と変わらぬ笑顔で俺を迎えてくれたが、その外見は40代のように見えた。
俺はひと晩を彼と過ごし、いろいろな話をした。今となっては、何を話したのかあまり覚えていないが、彼の弟や妹は学校を卒業し、就職したり、結婚したこと、弟たちの面倒を見るうちに自分は遊びも恋愛もできずに来たことを話してくれた。そして最後に、将来について不安や期待を抱えた俺の背中を押してくれた。写真のことは、ついに聞かなかったと思う。
あの日以来、彼とは会っていない。

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