慣れる
俺の知人で、木彫り細工の職人になった男がいる。ものすごい細かい細工を、彫刻刀を使いこなして施していく。
俺は彼の仕事を見ながら「不器用な俺にはできないな」と言った。
すると彼は「この仕事に器用かどうかは関係ない」と言った。彼によると、彼自身も決して器用ではないという。ただ、細かい作業を根気よく続けられるかどうかだと。続けていれば「慣れる」のだそうだ。
ううむ、それを続けられるってことが「器用だから」なんだと思うが。
俺は正真正銘、本当に不器用だ。折り紙も作れないし、針仕事も苦手だし、絵も下手くそ。
俺はトラック運転手の仕事をしていて、仕事では大型トラックを運転しているが、もう10年以上やっているのに、いまだにバックの駐車は1回で決められない。年下の後輩にとても上達の早いヤツがいて、そいつのハンドルさばきを見ると、正直言って自己嫌悪に陥ることもある。
慎重に
開き直りじゃないけど、俺は不器用で運転技術もそれほど高くないからこそ、ていねいな運転を心掛けてきた。運転は好きだが、決して得意ではないので、慎重にやってきた。
だからこそ、10年以上無事故無違反で続けてこられたのではないかと思う。
「慣れる」って、こういうことなのかもしれない。
俺の知人の木彫り細工職人は「自分にはとてもあんな大きなトラックの運転はできない」と言っていた。俺は「肝心なのは慣れだよ」と言ってやった。