全国走破
俺の父はトラック運転手をしていた。
とは言っても、1つの会社に勤め、そこのトラックに乗って運送業務に当たっていたのではない。自前のトラックを持ち、いろいろな会社から個別に仕事を請け負っていた。ナンバーが白だったか緑だったかは知らないけど。
とにかく、トラックで全国を回っていたらしい。
「らしい」と言うのも、実はそれは俺が生まれる前どころか、俺の母親と知り合ってさえいなかったころのこと。だから、それは後になって聞いた話。
その後、結婚を機に運送会社に就職し、俺が物心ついたころには日帰りできるトラック運送の仕事をしていた。
俺が高校生のころにあっけなく死んでしまったが、あまりしゃべらない人だったので、昔話もあまり聞いたことはなかった。
流れ者
ただ、本人にとっては会社勤めはやはり窮屈に感じていたらしい。亡くなった後、母親は俺の父が生前言っていたことを話してくれた。
父は自分のことを「星のない人間」だというような意味のことを言ったという。それを聞いた母が「星がないって、ツキがないってこと?」と聞き返したら「いや、定まった星がないってことだよ」と言ったとか。つまり、流れ者が性分に合っていると言いたかったらしい。
ただ、それを言うと結婚して家庭を守るために就職したことを後悔しているともとられかねないので、少し回りくどい言い方をしたみたいだ。
それにしても、なかなかカッコつけた言い方。もしかしたら俺の父は、今ならブログでも書いてアフェリエイトで副収入を得ることができたかもしれないな。