微妙な反応
僕はトラック運転手になってようやく1年の若造です。年齢は20代後半なんですが、会社では若造です。
1年経ったので、仕事のコツも覚えてきました。これでトラック運転手としてスタート地点に立った感じです。
仕事は主に、物流センターから各地の倉庫、支店などに商品を運ぶことです。同じ地域に届け先が数か所あるので、いかに効率的に荷の積み下ろしができるかに、自分の評価がかかっています。
仕事のスケジュールは当日分かります。朝、出社するとまず朝礼があるのですが、そこで各人のスケジュールが渡されます。
まだ「行くのは今回初めて」という地域もあります。
さて、先日、A町というところに初めて行くことになりました。その日、配車担当の人はA町への配送を、少し大きな声で僕に言って、そのスケジュールを渡しました。まるで他の社員に聞かせるような感じだったので、少し違和感を覚えました。微妙に驚いたような、周囲の反応も気になりました。
それで僕は配車の担当者に「A町には何かあるのですか?」と聞いたのですが、担当者は「いや、別に」と言葉を濁して行ってしまいました。先輩社員に聞いても、少し苦笑いをするだけです。
横切った影
とにかく、物流センターで荷をトラックに積み込み、A町に向かいました。
A町は隣の県の結構僻地にあります。そのため、山奥深く通っている道を進みます。
その山道をしばらく進むと、真っ昼間なのにやけに薄暗くなってきました。背の高い木に囲まれていて、日が差し込まない道でした。
そんな道で、ふとフロントガラスの前方上空を見てみると、木の切れ目で明るく見える空を、何か大きな影が横切るのが見えました。鳥にしては大きかったし、飛行機にしては低空だったので、正体が皆目分からず、僕はびっくりしました。
ただ、気のせいだったかもしれないので、僕はそのままトラックを走らせました。それでも少し前方の上空が気になっていました。
幸い、交通量が極端に少なく、全く他の車とすれ違うようなこともなかったので、僕はしばらく上空に注意しながらトラックを走らせていたと思います。
すると、また木の切れ目を横切る大きな影が見えたのです。
鳥? 飛行機? いや
今度はトラックを停めて降り、上空をよく見ることにしました。道路からそれて少し山の中に入ると、木が生えてなくてちょっとした広場になっている空間が見えたので、そこまで歩いてみることにしました。
広場に着き、頭上に広がった上空を見ると、何か大きな生き物が滑空しながら旋回しているのが見えました。翼のある生き物ですが、どう見ても鳥ではありません。それは映画や本で見た翼竜そっくりでした。
しばらくすると、その生き物は旋回をやめて北のほうに飛び去り、僕の視界から消えました。
それから、僕はその日の仕事を無事に終わらせ、何事もなかったように会社に戻りました。説明できないものを目撃したなんて誰かに言えば、精神状態や体調を疑われて「休め」なんて言われるかもしれないと思い、誰にもその日のことは言うまいと決めました。
しかし、僕がA町に行くと知ったときの周囲の反応は、このことを皆が予想できたからではないかとも思うのです。いつか、確かめてみたいと思います。