大敵は細いS字
僕はルート配送のトラックドライバーをしています。
担当のルートに、結構厄介な道路があります。やたらと細いんです。しかもSの字に曲がりくねっています。
最初、その道路に挑んだときは、僕もまだトラックドライバーになったばかりで、特に細くて曲がり角にもなっている場所は、通り抜けるのにかなり時間がかかってしまいました。今でも恐る恐る通ります。
さて、そのルートを先日、たまたまタクシーで通りました。僕が普段運転しているのは4トンの中型トラック。タクシーは普通自動車。もちろん、車体に差はありますが、タクシードライバーがあの細道をどう乗り切るか、僕は興味ビンビンでした。いや、違うなあ、興味シンシンか。
とにかく、タクシードライバーに悟られないよう、後部座席から微妙に身を乗り出して運転席を見守っていました。すると、タクシードライバーは何の気負いもなく、細いS字を通り抜けました。
ドライバーはかくありたい
恐らく、タクシードライバーの脈拍を計っていたら、全く変化はなかったはずです。体温だって全く上がらなかったでしょう。呼吸も穏やかそのもの。
一方、後部座席の僕は呼吸は荒くなり、ドキはムネムネ、じゃなくて胸はドキドキ、冷や汗たら~り、でした。
僕はおもむろに座席に深く腰を沈め、ひっそりと深く呼吸して息を整えました。
チラリとバックミラーでタクシードライバーの表情を確認しましたが、穏やかなその表情は、笑みを浮かべているようにさえ見えました。
「フフフ、この程度の細いS字道路にいちいち焦っていられるか」なんて思ってもいないでしょうけど、僕の心の中ではそんな声が幻聴となってコダマします。
なんてのはちょっと言い過ぎですね。
でも、そのタクシードライバーは憧れの的になりました。僕のヒーローです。
いつか、あの人の運転するタクシーにまた乗る日まで、あのヒーローを目指して運転技術を磨きます。