おいしい仕事
私は昔からおいしいものが大好きで、趣味は「おいしい店探し」。
そんなわけで大学を出てデパートに勤めた。ほら、デパートでよく北海道展とか九州うまいもの市とかやっているでしょ。その地方へ行っておいしい味を見つけ、そういう催事に誘致するバイヤーになりたかったのだ。
しかし、配属されるのは外商とか営業とかで、なかなか希望するところには行けず、ストレスばかりがたまる日々。
そこで熟考に熟考を重ね、タクシー運転手に転職した。
グルメ番組とか見ていると、よく「タクシー運転手に地元のおいしい店を聞いてみた」とかやっているので、タクシー運転手はそういう情報を集めやすいんだと思った。
それで実際、タクシー運転手になってみると、まさにその通りだった。
タクシー運転手は街中を流す。道を覚えるために、街の風景にも注意を払う。私は特に飲食店をランドマークとして注意深く見るようにした。直感的に「おいしそう」という店は記憶にとどめた。時間があるときは立ち寄り、実食した。
これで正解
仕事の経験値が上がると、あらかじめネットで評判の店を見つけ、そこを探すようになった。その途中でお客様を見つけたりすることもあったし、自分好みのおいしい味に出会うこともあった。
タクシー運転手は外食やコンビニ弁当が多く、財布にも健康にも優しくない、とよく言われるけど、それがしたくて自ら選んだ職業、自ら選んだ人生なので、これで不健康になろうが、お金を費やそうが、後悔はしない。
石原裕次郎なら「わが人生に悔いなし」を歌うところ。ラオウなら「我が生涯に一片の悔い無し」と拳を突き上げるはず。稀勢の里も「一片の悔いもございません」と言うだろう。
先日も、以前から気になっていた街道沿いの中華料理店に初見参。背脂コッテリ系チャーシューメンとピリ辛チャーハン、ホイコーローをいただいた。「孤独のグルメ」の主人公ライクに「なんてことだ。食べ始めているのにさらに腹がへっていくかのようだ」って気分になった。
近ごろは、この「おいしい店情報」がお客様の役に立つようにもなり、私のタクシーにリピーターもできてきた。