ごくありふれた仕事
これは私が5年くらい前に体験したできごとです。私は10年以上、トラックのドライバーとして働いているのですが、正気を疑われるのを避けたいので、具体的な地名などの表記は避けます。
当時、私はT市の工場からN市の倉庫へ商品を運ぶ仕事をしていました。片道でだいたい1時間かかる道のりで、途中で有料道路を使います。クライアントの要請で、この有料道路を使って効率的に商品を運ぶことになっていたので、私も当然、その通りにしていました。
その日、商品をトラックに乗せ、工場を出発したのは早朝7時でした。8時には倉庫に着くことになります。
工場は人里離れた場所にあり、そのため有料道路も山の中や林に囲まれたところを通ります。冬の寒い日で少し霧が出ていましたし、朝早かったので運転に集中してハンドルを握っていました。ラジオなどで音楽を聞くこともしませんでした。
消えた時間
何度も通っている道で、今さら景色を見るようなこともなかったですが、そのうち何か奇妙な感覚に襲われました。霧が濃くなり、しかもキラキラ光っているように見えたのです。
不思議なことに対向車や私の前、後ろを走るクルマも全くありませんでした。ほかのクルマのエンジン音も全く聞こえず、不気味なくらいの静寂でした。
そんな状態が10秒くらい続いたでしょうか。気が付くと霧はすっかり晴れ、私のトラックの横を対向車が通り過ぎていきました。さらにびっくりしたことに、トラックはすでにN市に入っていたのです。結局、いつもより30分も早く、倉庫に着いていました。有料道路には料金所が2か所ありますが、2つ目の料金所を通った記憶もありません。
1時間かかる道のりを30分で走るなんて物理的にありえません。当時、私のトラックにはまだドライブレコーダーも設置されておらず、あの日、私のトラックに何が起こったのか、今も説明することができません。