仕事を教えてくれた
僕はトラックドライバー。
トラックドライバーとして初めて入社した会社で、僕にトラックドライバーの仕事を教えてくれたのは元さんというベテランドライバーだ。
元さんと僕は言うなれば師匠と弟子。先生と生徒。師父と弟子。マスターとパダワン。親分と子分。大家と店子。ボスと手下。それから…。
まあ、いい。
師匠と言っても、僕が勝手に「師匠」と言っていただけで、元さんのほうは「俺は弟子なんか取った覚えはない」という言い方だった。僕が「先輩」と呼ぶのも嫌い、「元さんで良いよ」とたしなめられた。
学んだことは多い
基本的に仕事は「見て覚えろ」という態度で、細かく言葉で説明してくれることはなかった。ただ、トラックドライバーの仕事はシンプルと言えばシンプルで、見ていれば大体分かった。細かい手順が必要な、書類の受け渡しなどは元さんじゃなくて上司が説明してくれた。
ただ、元さんから学んだことは多い。荷崩れを起こさないような、ていねいでおだやかな運転や、バックのとき、駐車場に入れるときなどの周囲の徹底した確認は、元さんの仕事を見て覚えたと言って良い。
それから礼儀、運転時に必要な譲り合いの気持ち、交通マナー・エチケットは元さんから教えられた。
トラックドライバーはマナーやエチケットを、言葉ではなく、行動で示すことが多い。言葉は、内心でどう思っていようと、表面だけを取り繕うことも、やろうと思えばできる。しかし、行動は、本当の「譲る」「礼を尽くす」気持ちがないとなかなかできない。
そんなことを教えてくれた元さんは、やはり僕の師匠だ。