運ぶもの
リネンとは亜麻の繊維を原料とした布のことで、シーツや枕カバー、テーブルクロスなどに使われている。
俺はトラック運転手として、このリネンを運ぶ仕事をしている。
ただ、最初は「シーツの原材料を運ぶ仕事」と教わったものの、「リネン」なんて言葉は知らなかった。その布を運ぶ先の工場に「リネン製品生産」なんて書かれた看板があり「リネンって何だ?」と疑問に思っていた。まさか、自分が運んでいるものがリネンだなんて、割りと最近まで知らなかった。
そんな先日、トラック運転手仲間と久しぶりに話すことがあり、お互いの仕事の話になった。
そいつは大型精密機械を運ぶ大型トラックを運転していた。何しろ精密機械なので、特に慎重でていねいな運転を求められるものの、そんな荷を任せてもらえることが自慢気のようだった。
俺は我が身を顧みて「俺の仕事は他人に自慢気に話せることなのだろうか」と、フクザツな気持ちになった。
やりがいやらなんやら
だが俺は意を決して「シーツの原材料を運んでいる」と話した。するとそいつが「リネンか」と言う。
俺が「リネン? なんだそりゃ」と返したので「亜麻の繊維を原料とした布のことで、シーツや枕カバー、テーブルクロスなどに使われている」と教えてくれた。
なるほど、俺が運んだリネンとやらでシーツや枕カバー、それにテーブルクロスなんかを作っているわけか。単に「シーツの原材料」というだけではなく、リネンとやらはなかなか使い勝手のイイもののようだ。
それに、俺が運んでいるのが「シーツの原材料」と知ったときのそいつの表情も、決して俺の仕事を見下すものではなかった。
俺は自分の仕事の意義もろくに知らずにいたことを恥じ、しかし、知ったからにはそれを誇りに思うことにした。
俺が原材料を運ぶからシーツや枕カバーなどいろいろなものが作られるのだ。運ぶ人間がいなければ、リネンとやらもシーツや枕カバーなどいろいろなものには生まれ変わることはない。
リネンとやらも、精密機械並みに大切な「荷」には変わりないではないか。
俺はこれからもリネンだけじゃなく、いろいろなものを運ぶだろう。やはり自分の仕事をきちんと理解してこそ、やりがいやらなんやらも生まれるものだ。