胃薬飲みながら
僕の友人は大学を卒業してゲームクリエイターになった。
彼は昔からゲームが大好き‥だったわけではない。普通くらいに好きだった程度で、ただ「イメージがカッコいいから」ゲームクリエイターになった。
ゲームクリエイターと言っても仕事は幅広い。彼はゲームを企画し、会社や取引先に提案する仕事をしていた。
ところが、その仕事を始めて数年すると、だんだんストレスがたまって、仕事がイヤになったという。クリエイターと言うと聞こえはいいが、やっていることは営業職だし、それに仕事はチームプレイなので、自分の意志が反映されにくい。特に彼の場合、同僚に全く気の合わないヤツがいて、最後の数か月はしょっちゅう胃薬を飲んでいた印象。
営業マンになって気づいた
そんなわけで、彼は憧れの職業ゲームクリエイターを辞め、転職することにした。
「どうせ営業マンみたいな仕事をしてたんだから」と、選んだのは商社の営業職。会社が扱う商品をプレゼンし、販路の拡大を図るのが仕事になった。
もともと、根っからのゲーム好きだったわけじゃない彼だが、そこで主に担当したのが食材で、食への興味は強かったので、生き生きと仕事するようになった。
いろいろな地域の食材を、最もおいしい形で消費者に届ける仕事に、熱心に取り組んだ。
だが、やがて彼は、営業として食材に携わるより、もっと直接「食材を届ける」ことに関わりたくなった。
商社の営業として物流の担当とは密接な連携が必要だ。そこで物流の知識を深めるうちに、物流業界で仕事をしたくなったというから、人間とは分からない。分からないから面白い。
胸を張って誇れる仕事
現在、僕の友人はトラック運転手として働いている。
魚港から魚を運んだり、港町から輸入食材を運んだりしている。その食材をきちんと届けたいという思いから、彼の運転は慎重でていねいだ。なおかつ、荷役などの作業も効率的。
そもそも、人に提案したりする営業的な仕事も、何かをチームプレイでつくり出す協同作業も、彼には向いていなかったようだ。
誰にも気兼ねすることなく、1人で黙々とトラックを運転して日本中を行く。
そんな仕事がとても自分に合っていると、久々に会った彼はうれしそうに胸を張ったよ。