泣く子が泣いちゃう丑三つ時
僕は長距離トラックの運転手をしている30代男ですが、いわゆるビビりです。幽霊だの呪いだのいうホラー映画は絶対に見ません。運転が好きなのでトラック運転手という職業に就きましたが、同じ運転手でもタクシー運転手には心霊体験があるかもと思ってそっちは選びませんでした。
さて、そんな僕がG県のH地方に荷物を運んで行ったときのことです。
H地方は雄大な自然で知られる森林が広がっていて、木漏れ日そそぐ道を疾走していると、軽い森林浴気分が味わえます。
けど、これが夜だと大変です。月も出ていないと、すっかり真っ暗闇となって、日ごろから孤独な仕事の長距離運転が、より心細いものとなります。深夜の丑三つ時なんて気分は最悪。
とにかく、その日もまさに深夜の時間帯、H地方の山の中を走っていました。
普段から、もちろん安全運転には気をつけていますが、真夜中ともなればなおさらです。よそ見をせずにひたすら意識を集中して運転しました。
湖のひみつ
けど、それでかえって疲れたのか、だんだん眠くなってきました。安全運転を重視する僕は、ここで無理せず、トラックを停めてしばし仮眠を取ることを決めました。時計を見ると午前1時ごろ。少し仮眠を取っても、納品の時間には十分間に合います。
30分と時間を決めて目覚ましのタイマーをセットし、運転席を倒して目をつむりました。よほど強烈な睡魔だったのか、すぐに眠りに落ちました。
どれくらい経ったでしょうか。僕はふと、目を覚ましました。
スマホを見ると、不思議なことに目覚ましタイマーのセット時間を30分も過ぎています。なぜかアラームが鳴らなかったのです。
トラックの窓から外の景色に目をやると、いつの間にか霧が出ています。それに、眠る前は気がつかなかったのですが、トラックを停めたのはどうやら池か湖のすぐそばでした。木立の合間にぼんやりと水面が見えたのです。
得体の知れない何か
鳴らなかったアラーム、霧、湖と、なんだか背筋も凍る要素に囲まれたような気持ちになった僕は、思わず木立の合間に見える湖面を凝視しました。すると、何か得体の知れない、黒いものが水面を押し上げて姿を現した、ように見えたのです。
「ぎゃあああ」と心の中で声にならない叫び声を上げた僕は、慌ててトラックを発進させました。眠気はすっかり去り、夜が白々と明けるころには納品先の会社がある街に着いていました。納品時間までまだ少し時間があるので、路肩にトラックを停め、少し気持ちを落ち着かせました。
一体、あの黒いものは何だったのでしょう。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」とも言いますし、何でもなかったのかもしれません。
あれこそ未確認生物だったと言いたいところですが、この話にオチはありません。そうそう、「未確認生物」でネット検索すると、女優のユマ・サーマンの画像が出てきます。UMAだけに。