瞬間移動
時空のゆがみというのをご存じだろうか。
時空がゆがむと、過去や未来とつながったり、物体が何百kmも離れた場所に一瞬で移動したりする。
私はトラックドライバー。昔々、そのトラックドライバーの仕事中、私は明らかに「時空のゆがみ」とも言うべきものを通過したと思える体験をした。
当時は今ほどトラックドライバーの労働環境に関する法令が徹底されていなかったので、会社も随分と無理な仕事をトラックドライバーにさせていた。そんな昔の話だ。
吸い込まれそうな暗闇
我々トラックドライバーも、「そんな無理な」という仕事はギャラが良かったので「全く無茶を言いやがって」と言いながら、内心微笑みながら引き受けていた。
その日も、なかなかハードな仕事を引き受け、栄養ドリンクを飲んで何とかハンドルを握って運転を続けていた。まあ、そのルートは通い慣れた道ではあったので、ハードながらも「何とかなるだろう」と思っていた。
そこは山道で、平地に出るまで橋を3つ渡る。まず、最初の橋は谷にかかる橋だ。橋から谷をのぞき込むと、吸い込まれそうな暗闇で、背筋に何やら冷たいものが走った。
消えた橋
2つ目の橋は小川を渡るものだった。いつもは澄んでいて、そよそよ流れる小川の水が、何やら巨大な蛇がゆっくり動いていくように見えて不気味に感じた。
そして3つ目の橋は、少し大きめの川を渡る、長めの橋、だったはずなのだが、私のトラックは3つ目の橋を渡ることなく、いつの間にか平地の街中に出ていた。「キツネにつままれたような」とはまさにこのことだと思った。
こんな話、さすがに会社には報告できなかったが、帰宅して妻に話した。「疲れて寝ながら運転してたんじゃないの。危ないわねえ」とオカンムリだ。
時空のゆがみに入って空間を瞬時に移動したに違いないと話したが、信じてくれなかった。