不条理
ある朝目覚めたら、僕はトラックドライバーだった。まるでカフカの「変身」だ。
おかしい。確かに前日までの僕はそこそこ有名な大学に通い、将来を約束されていた、はずだった。それをなぜ、よりにもよって「学歴不要で誰でも就ける」トラックドライバーになんかならなきゃいけないのだ。
ただ、トラックドライバーなんて誰でもできる、簡単な仕事だ。そこそこ有名な大学に通っていた僕なら、目をつぶっていたってできるだろう。
ところが、これが意外と難しい。まず、トラックの運転がこんなに大変だとは思わなかった。しかも、積んだ荷が荷崩れを起こしたりするとまずいから、普通の車よりていねいなハンドル操作をしなければいけないし、車間距離やブレーキ操作、アクセル操作にもとても気を使う。
1日の仕事が終わると、僕はヘトヘトに疲れていた。
約束
荷崩れを避けるには、荷崩れを起こしにくいような積み方をしなければいけない。しかも、荷を届ける時間は指定されているので、遅れないように1つ1つの作業も効率的に行わなければいけない。
そうやって準備万端整え、荷を積んで出発しても、道路上ではいつ、何が起こるか分からない。渋滞に巻き込まれてしまうこともある。そんなときは、このまましばらく渋滞に身を任せるか、抜け道を探すか、瞬時に判断しなければいけない。くそっ! 誰だ「トラックドライバーなんて誰でもできる」なんて言ったヤツは!
だが、そうして苦労と工夫を経て荷を届けると、受け取る側の担当者が「ごくろうさま」「待ってたよ」「ありがとう」なんて言葉をかけてくれることもある。うれしくて、そんな言葉が心に染みてくる。
こんな人生もあるかもしれない。そもそも大学に通ったくらいで将来は約束なんてされない。大体、誰と約束すると言うんだ。