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タクシー運転手 体験談

暗くなるまでこの道を

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多くは語らない

僕らタクシードライバーにとって、長距離のお客さんはありがたいものだ。タクシードライバーの給与は歩合制が多く、僕はもちろんその歩合制で働いているが、お客さんが払ってくれる売り上げの約6割が自分の収入になる。
だから、お客さんの支払い金額が大きければ大きいほど、自分の収入も大きくなる。これはとてもありがたいことだ。
その日、駅近くの、とある場所で僕のタクシーに乗って来た男性も、そんな高収入を期待させてくれるお客さんだった。
その人は乗ってくるなり、明確な目的地は言わずに「この道をまっすぐ行ってくれ」と言って、黙り込んでしまった。本当はしっかり目的地まで教えてくれたほうが、例えばその場所ならこういったほうが早いとか、ルートを判断できるのでありがたいのだが、こういう「その都度、指示をする」というタイプの人もたまにはいる。珍しいことではないので、僕は指示に従った。
ただ、目的地を言わないで「その都度、指示をする」タイプの人が目指すのは、比較的近い場所が多い。遠ければ、最初にその周辺を指示し、近づいてから細かい指示をすればいいからだ。

長距離になるかも

まあ、そんなわけで、最初はあまり期待しないでハンドルを握っていた。しかし、なかなか次の指示がない。つまり「次の信号を左ね」とか「次の角で右折」とか、そういう指示だ。
指示がないから、こちらとしてはそのまま「道をまっすぐ行く」しかない。なかなか次の指示がない。僕も不安になり、たまに「まだ真っすぐで良いですか?」と声を掛ける。「このままで」という返事。よほど「目的地を教えてください」と言おうとも思ったが、何か「話しかけないで」オーラを放っている。
そうやって進むうち、夕方ぐらいにその人を乗せたはずが、日はすっかり落ちてそろそろ暗くなってきた。県境を過ぎ、周囲は林や田畑にもなってきた。
このころになると、僕も「こりゃ長距離になるかも」と期待が膨らんだ。
と、ちょうどその期待が膨らんだ瞬間、お客さんが「ここで停めて」と言った。周囲には何もない野原の真ん中みたいな場所だ。
「ここで大丈夫ですか?」と、いぶかしがる僕の声を何にも気にする様子もなく、お客さんは料金を払ってタクシーを降りた。僕がタクシーを発進させると、ミラーの中に1本道をとぼとぼ歩く、そのお客さんの姿が遠ざかっていくのが見えた。
キツネにつままれたような気もしたが、お金はちゃんと本物だった。結局、そこそこ長距離だった。

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