大勢であるがゆえに
もう一度できるなら、あの日に戻って、初めて1人でタクシー乗務に就いた緊張を感じてみたくなるときがある。
もう横には鬼の教官はいないという安心感より、何でも1人で対処しなければいけない怖さをを感じていた。
もともと商社勤めで、チームでの仕事に人間関係のわずらわしさを感じ、タクシードライバーになったはずなのに「明日から1人きりになる」と怖気づいていた、あの日。
だけど、タクシードライバーも決して1人じゃなかった。
仕事で困ったことがあったり、失敗すると、相談に乗ってくれる上司もいる。研修のときには「鬼のように」怖かった先輩も、親切ていねいにトラブル対処を教えてくれる。
力が尽きても、倒れそうでも、くじけそうでも励ましてくれる同僚もいる。
ときのゆりかご
もう一度できるなら、あの日に戻って、新しい人生のスタートを切るという高揚感を思い出したい。
タクシードライバーの仕事は努力次第でたくさん稼げるし、平日にまとまった休みを取りやすく、プライベートが充実する。商社勤めのように、休日まで仕事の電話がかかってきたり、自宅に仕事を持ち帰る必要もない。
仕事なので大変なことは多いし、辛いこともあるけど、いろいろなお客さんと接することができ、やりがいも大きい。
私はタクシードライバーの仕事から多くのことを教えてもらった気がする。限りない思いやり、果てしない可能性、終わらない喜びを。