微妙に嫌
俺の父親はトラックドライバーだった。昭和の、いかにもイメージ通りの荒くれ者でもあった。
と言っても、荒くれ者と無法者とは違う。父は情に厚く、家族にも深い愛情を注ぐ人だった。それでも、子ども心に「荒くれ者」という感じの父を「カッコいい」とは思えず、俺は「大人になってもトラックドライバーにだけはなるまい」と思っていた。
2つ年下の妹も、父を嫌っていたわけではないが、やはり垢ぬけない父を「恥ずかしい」と思っていた節がある。仕事に忙しい父は子どもの学校行事にも来たことはなかったが、運動会なんかがある度に「今度は俺も応援に行くからな」と言っていた。そう言われる度に妹は、微妙に嫌そうな表情を浮かべていた。結局、一度も来なかったけど。
ただの偶然
だが、紆余曲折あって俺はトラックドライバーになってしまった。もちろん、父に憧れて、ではない。言ってみれば、ただの偶然だ。
だから、就職先も父が勤める会社とは違う。
俺が勤めた会社は、社長も従業員も比較的若く「昔ながらの」昭和な感じのトラックドライバーはいない。良く言えば「おとなしそう」、悪く言えば「弱そう」な男たちの集まりだ。いや、女性ドライバーもいる。
俺が勤め始めたときはまだ妹も実家にいて、俺がトラックドライバーになったと聞いて「お父さんだけだと思っていたら、あんたもか」と毒づいた。
まあ、いいだろう。そのうち俺が、トラックドライバーのイメージを変えてやろう。