負い目
俺はトラック運転手だ。祖父も父もトラック運転手だったので、俺がトラック運転手になったのも宿命だった、かもしれない。「宿命」と書いて、カッコつけて「さだめ」と読んだりもするけど、ここでも「さだめ」と読んでほしい。
俺の父が子どものころ、一家は公営住宅に住んでいた。他の家庭はサラリーマンが多く、父親たちは皆、背広姿で出勤していたが、祖父はそのままトラックを運転できるよう、作業着で出勤していた。1人だけ作業着姿で出勤する自分の父の姿を、俺の父は少し恥ずかしく感じたようだ。
そんな風に、自分の父親の職業を恥ずかしく思うことに負い目も感じ、父は大人になっても「トラック運転手にだけはなるまい」と決めていたそうだ。
それなのに、父は高校を卒業するとトラック運転手になった。高校時代の親友に誘われたかららしい。
物流に興味
父がそんな子ども時代を過ごしたので、父は俺には同じ思いをさせまいと思ったみたいで、トラック運転手なのに毎日背広で出勤し、背広姿で帰ってきた。会社で作業着に着替えていたわけだ。
そのため、俺は長い間、父親を一般的な企業のサラリーマンだと思っていた。家では仕事の話は一切しなかったし、学校で親の職業を聞いたり、親の仕事に関する作文を書かせる無粋なこともなかったおかげだ。ちなみに、祖父がトラック運転手ということは何となく知っていたが、祖父も多くは語らなかった。
そんな俺がトラック運転手になったのは、別に誰かに誘われたからではない。高校生くらいで物流に興味を持ち、その最前線で仕事をしたいと考えたからだ。
「トラック運転手に、俺はなる」と父に打ち明けた夜、俺は初めて父がトラック運転手だと聞いた。
そのとき宿命かも、と思った。