ないわけじゃない
俺はトラックドライバーの仕事をしている。
トラックドライバーは基本的に1人で仕事をする。運転席の横には上司も同僚もいない。そのため「人間関係のストレスが少ない職場」と言われる。
確かにそうだが、人間関係のストレスは「少ない」だけで、決して「ない」わけじゃない。
トラックドライバーの人間関係によるストレスの元になるのが、荷主の担当者だ。
荷主というのは、トラックドライバーが運ぶ荷の権利者のこと。この荷主のところに荷を運ぶのが、トラックドライバーの主な仕事となる。
荷主は荷を届ける時間に厳しく、トラックドライバーに対して優しくないことが多い。大企業が下請け会社に優しくないのと同じだ。
荷を届ける時間だけは厳密に決めておいて、遅刻を許さないのはもちろん、早く着き過ぎてもいけないのだから、トラックドライバーにストレスもたまる。その上、本来は荷の受け取り側、つまり荷主の仕事である荷下ろしの作業をトラックドライバーにやらせたりする。
大人の社会人
だが、最近はトラックドライバーの労働環境を改善しようという取り組みが始まっている。その1つとして、荷主にもトラックドライバーの立場ややり方を尊重するようにという要請が出ている。
「お客様は神様」なんて言葉があるからか、どうもお金を払うほうはお金を受け取るほうに何を要求しても構わん、みたいな風潮が昔からどの業界、どの世界でもあった。だが、本来、商取引の場においては対等のはず。それを実践していこうという気概が、どの業界、どの世界でも起きつつあるような気がしてるようなこともあるのじゃないだろうか。
そう、俺たちトラックドライバーも、本来は荷主と対等のはず。無理が通れば道理引っ込むは、もう通用しない。無茶は無茶、無理は無理と、はっきり言おうではないか。
そんな気持ちを胸に秘め、俺は今日も荷を運ぶ。もちろん、社会人なので荷主の担当者にもていねいに接する。敬語も使う。
だが、それは相手が荷主だからではない。誰に対しても大人の社会人として、ていねいに接するだけだ。
心の中では「お前の受取証と、持ってきた荷をとっとと交換しろ」という気持ち。