定番のシーン
サスペンスドラマなんかを見ていると、登場人物が駅前なんかでタクシーに乗り込み、運転手に「あの車をつけてくれ」とか「前の車を追ってくれ」なんていうシーンがある。
私はタクシー運転手になって10年以上になるが、今までそんなことを言われたことがない。同僚にも何人か聞いてみたことがあるが、たいてい「そんな経験はない」と言われる。
ただし、「車の後をつけてくれ」の経験はないが「つけられた」経験を持つタクシー運転手はいた。
聞けば何でもないことで、グループで来たお客さんがタクシー2台に分かれて乗り、たまたま前のタクシー、つまり自分のタクシーに乗った人間だけが正確な道案内ができ、後ろのタクシーに乗った人たちは「前のタクシーを追って」としか指示できなかっただけのことだ。
追われる側
そこにサスペンスフルな要素は全くない。
とは言え、後続のタクシーが自分のタクシーを見失ったら厄介なので、運転には結構気を使ったらしい。信号や周囲の車の状況を見つつ、ノロノロ運転にならず、かといってスピードもそれほどは上げずに運転しなければいけない。これは大変だったという。
その人のタクシーは一般的な車種だったが、後続はいわゆるJapanTaxi(ジャパンタクシー)、それも高級感ある黒い車体で、追われる側としては何となく威圧感もあったとか。
後ろから黒い車がピタッとついてくるんだから、こりゃなかなかサスペンスフルかもしれない。その人の話を聞きながら、私はそんな空想を楽しんだりしていた。