人生模様
トラック運転手はいろいろなものを運ぶ。
私は引っ越し業社で引っ越しトラックの運転をやっている。
引っ越し業のトラック運転手は通常、トラックを運転するだけではなく、いわゆる引っ越しのスタッフとしても作業を行う。
で、引っ越し業社は実にいろいろな家庭のいろいろな荷物を運ぶ。そこで見られる人生模様はとても面白い。この面白さもあって、体力的に大変だが、私は引っ越し業の仕事を楽しんでいる。
さて、あれはもう5年くらい前のことだ。
たいていの引っ越し業社では、丸ごとの引っ越しではなくても、大きな家具だけの引き取り配送なんかの依頼も受けている。私はその日、依頼によってある家にカーペットを引き取りに行った。
そのカーペットは梱包もされていなくて、丸めた状態で家の中の壁に立てかけてあった。私は手順にしたがって梱包したのだが、そのとき、カーペットがやけに汚れているのに気がついた。もともと白いカーペットだったようなのだが、全体的に黒ずんでいたのだ。
残る謎
なるほど、それで廃棄処分にするのか。
いや、待てよ。廃棄するならリサイクルショップなどに依頼するはず。今回の届け先を見ると、普通の住宅のようだった。しかも、発送元と届け先の苗字が同じなので、親戚や家族のはず。
そんな風にアレコレ考えながら梱包作業をしていて、私はその家のリビングに黒いカーペットが敷かれているのに気づいた。
それも真新しいカーペットのようだった。
そこのリビングはモダンな洋室だったので、黒いカーペットもそこはかとなく似合っていた。カーペットに合わせたように、ソファも黒だった。
とにかく、私は梱包した古いカーペットを荷台に積み、届け先に運んだ。
その日の仕事が終わり、営業所に戻った私は、所長に黒いカーペットの運送について聞いてみた。やはり、長年使っていて汚れたカーペットを処分したかったのだとか。ちなみに、新しい黒いカーペットは、多少汚れても目立たないように、最初から黒にしたのだった。そりゃそうだ。
ただ、私が運んだカーペットのその後については、謎のままだ。