叔父の帰郷
叔父が数年ぶりに帰ってきた。
僕の父はトラック運転手だが、叔父ももともとこの故郷の街でトラック運転手をしていた。その後、理由は知らないが故郷を出て、風来坊暮らしをしていると聞いた。その叔父が帰ってきたのだ。
叔父は父の弟で、歳は2つくらいしか違わないが、まだ独身ということもあって自由気ままに暮らしている雰囲気がとてもカッコよく見えた。
父はそんな弟が戻ったことがうれしくて、自分の会社に連れて行って、愛車でもあるトラックを見せて自慢したりした。叔父も父の荷役作業を手伝ったりした。その効率的な仕事ぶりに社長も感心し、ここで働かないかと誘ったらしい。だが、叔父はこの話を断ったようだった。
そんなある日、父が事故を起こしてしまった。ちょっと弟に良いところを見せようとして無理をしたらしかった。父は全治1か月のケガをして入院することになった。
叔父の活躍
すると、叔父が父の会社をぶらりと訪れ、父の仕事を代わりにやらせてほしいと社長に頼んだ。父が入院して人手が足りていなかったので、社長は渡りに船で叔父の申し出を快諾した。
僕の父は会社でも勤続年数が長く、特に面倒な仕事を担当していた。ある工場と倉庫を行き来する仕事だったのだが、どちらも注文が細かく、新人ではとても務まらない仕事だった。
だが、叔父はあえてその仕事を引き受け、しかもその仕事をしながら、迷子になっていた男の子を仕事の途中で見つけて助けるということまでやってのけた。
当時は、その子を黙って近くの交番に届け、男の子にも自分のことは秘密にするよう約束させたので、僕もそんなことがあったなんて知らなかったが、数年後、叔父に礼を言うために訪ねてきた男の子の父親にこの件を聞いた。
やがて父が退院すると、叔父はまた旅に出た。あれ以来、戻って来ていないけど、叔父は今日もどこかでトラックを走らせているだろう。