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タクシー運転手 体験談

借金つくってタクシー運転手に

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その場しのぎ

私がタクシー運転手になったのは28歳のときでした。
ちょっと名の知れた大手企業で社会人デビューを飾った後、退職して起業したもののうまくいかず、借金をつくって会社を畳むことになりました。
それで借金を返しながら生活するため、すぐにでも稼げるだろうと思って、タクシー会社に就職したンです。
正直、「その場しのぎ」でタクシー運転手を始めたわけです。「タクシー運転手は拘束時間が長いわりに稼ぎは少ない」「タクシー運転手はほかにやることがなくなった中高年が就く仕事」といった、タクシー運転手のマイナスイメージは重々承知していたンですが、それをとやかく言っていられる状況ではありませんでした。
また、私自身「タクシー運転手なんて、お客を乗せて目的地まで届けるだけの簡単な仕事」と、タカをくくっていたのも事実。要するに、たくさんお客を乗せればガッポリ稼げるはず、と思っていたンです。
ですが、実際に働いてみると、そんな簡単な仕事ではありませんでした。

経営手腕を発揮

たとえると、俳優は「セリフを覚えて自分の出番に、そのセリフを言うだけの簡単な仕事」であり、「出番以外は労働してない楽な仕事」ではありますが、実際には「脚本を読み込んで役を研究する“役作り”」という作業が結果を左右する、ってこともあります。それと似ています。
私に俳優の経験はありませんけど。
ともかく、タクシー運転手もお客様を見つけるためには事前の入念な準備が必要であり、また、“お得意様”になってもらうには「お客様に快適に過ごしていただく接客術」が必要だと分かってきました。それらがないと、それこそ「拘束時間が長いわりに稼ぎは少ない」になってしまいます。
しかし、入念な準備と接客術があれば、かなりの稼ぎを上げることができるンです。これは私にとって大きな発見でした。
タクシー運転手は単純な肉体労働ではなく、高度な頭脳労働でもあったわけです。もちろん、頭を使わず、そこそこの稼ぎで働くこともできます。でも私は、自分なりに工夫してタクシーを運転することにしました。自分でそういうやり方を選んだンです。
そう考えると、タクシー運転手は個人経営者でもあると言えます。売り上げを伸ばすも減らすも、自分の経営手腕によるのですから。
そして、そうやって臨むタクシー運転手の仕事は、とても楽しいです。ちなみに、借金はすべて完済しました。

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