未知との遭遇したいのに
私は、とある地方都市でタクシー運転手をしています。
子どものころから、いわゆる超常現象に興味津々で、タクシー運転手は近くにうるさい上司もいませんし、勤務中に何かしら超常現象に出くわすんじゃないかと身構えて、ワクワクしながら運転しています。
と言うか、超常現象に出会いたいという強い願望を持って、日々過ごしています。
しかしまあ、そういう願望を持っているほど、出会わないものですね。
けど、運転手仲間にはこんな体験をした人がいました。
その人は乗客を郊外まで乗せて目的地で降ろし、田舎道を走っていたそうです。時間は夜10時近く。周囲は田畑で、遠くには山々が黒い稜線を描き、不気味にも見えます。
家もまばらな場所なので、月明かり以外にはたまに街灯があるくらいで、少し心細かったそうです。
そのとき、本社から無線で連絡が入りました。
ブツブツ
それは、近くの駅に乗客を拾いに行ってほしいという要請でした。
しかし、急に無線が混信しだしたそうです。最初はブツブツ言っている感じではっきり聞き取れなかったのが、だんだん明瞭になっていき、それは誰かの話し声だと分かってきました。ただ、何を言っているのかさっぱり分かりません。あきらかに日本語じゃないし、英語、中国語、韓国語でもなかったと言います。
そのときには本社の声は聞こえなくなっていて、呼びかけても応答がありません。混信している声は逆にどんどん明瞭になってきて、聞いていると人間の声とは声質が違うようにも思えてきました。それでも、ちゃんとした文法を話しているように聞こえました。
そのとき、遠くの山の上を光る物体が飛び去っていった、ように見えたそうです。それから混信の声が急に聞こえなくなりました。
モヤモヤ
無線を再開して本社が言うのには、混信のブツブツ言う声は本社にも聞こえていたようです。ただ、声が明瞭にならないうちに、何も聞こえなくなってしまったということでした。
あたりは最近、UFOの目撃情報が多く、宇宙人の基地があると噂されている場所だったとか。
この体験談を話してくれた運転手はいたって真面目な人物で、日ごろから冗談1つ言いません。本来、宇宙人が空飛ぶ円盤で地球に来ているなんてヨタ話は信じない派でしたが、あの夜の体験は重たい鉛のように腹の底に沈み込んでいるそうです。目撃談でよくある「時間消失」だの「空間移動」だの、いかにもな遭遇体験はなかったけど、モヤモヤするのも確かだと言っていました。
私もたまにその田舎道を走るんですけど、そんな体験はさっぱりです。