通い慣れた道
俺の親父は若いころ、トラックドライバーだった。これは、その親父が亡くなる前に話してくれたこと。
親父が若いころと言うから、50年も前のことか。親父は長距離のドライバーで、県を越えて荷を運んでいたという。毎回同じ場所に荷を運んでいたので、毎回同じルートを通っていたらしい。つまり、通い慣れた道だ。
その日もそのルートを通った。周囲には人家やビルなどがなく、林の中を通る1本道だった。
静まり返った林
その林の中を通っていたとき、親父はふと違和感を覚えたという。何の特徴もない1本道なので、どこがどうと聞かれると困るが、いつも通っている道とは違うような気がしたそうだ。昼間だと言うのに、すれ違う車もないことも親父を不安にさせた。
親父はトラックを停め、運転席から降りてみた。すると、木の枝と枝がこすれる音や風の音など、一切の物音がなく、辺りは妙に静かだった。
とにかくこの林から出なければいけないと感じた親父は急いでトラックに戻り、再び道を進み始めた。
消えた30分
しばらく行くと、これも具体的に説明しようがないが、「いつもの道に戻った」感覚がしたという。
そうこうして荷の届け先に着くと、そこの担当者から「どうしたの? 今日はいつもより30分も早いじゃない」と声を掛けられ、親父はビックリした。いつもと同じルートを、いつも通りに走ってきた。いや、何なら「いつもと違う道に迷い込んだ」おかげで、いつもより余計に時間がかかっているはずだったからだ。
しかし、時計を見ると、担当者の言う通り、いつもより30分も早く着いている。
その後、何度もそのルートを通ったが、そんなできごとはその日だけだったそうだ。