お気に入りの場所
あれは2年前のことだ。
トラック運転手として主に工場に部品を運び、工場から製品を倉庫に運ぶ仕事をしていて、毎日決まった道を走るのが私の仕事だった。
工場も倉庫も郊外にあるので、走る道もいわゆる産業道路で、同じようなトラックが多く通るし、道路沿いには大型店舗が立ち並ぶ以外にあまり見るべきものもない。どこの地域にもある、何の変哲もない風景が続くだけだ。
そんな「毎日通る決まった道」でも、実はお気に入りの場所があった。そこは市内を流れる川を渡る橋で、普通に真っすぐ伸びた橋ではなく、時代劇に出てくる日本橋みたいに、ゆるやかな円を描いた橋だ。
また、昭和初期なのか大正時代にできた橋なのか、ちょっと趣のあるデザインで、ドラマのロケにも使えそうな感じ。
さっき通ったのに
さて、その日私は、新しく入社した新人を横に乗せてトラックを走らせていた。新人に仕事を覚えてもらうためだ。つまり、その新人の研修を担当していたのだ。
私のお気に入りの場所についても、何となく鼻高々に、その新人に解説したりした。新人はまだ緊張気味だったが、仕事と直接関係ない私の話に、何となく気持ちがほぐれてきた感じだった。
それからまた産業道路をひた走ると、5分ほどして驚いたことに再び、その橋が目の前に現れた。新人は「また同じような橋ですね」と言ったが、そんなものがないことを私は知っている。毎日、同じこの道を通っているのだから。
道を間違えてどっかでUターンしたわけでもない。しかし、新人も気づいたように、確実に「同じ橋」を2回渡った。
今はまた違うルートを走る仕事をしているが、説明不能な、あんな不可解な経験をしたのはあの1度きりだ。