ドライバーのための転職情報コラム

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タクシー運転手 体験談

百聞は一見に如かず

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経験を生かす

私は疑り深い。
大学を卒業して就職先には化学工業系の会社を考えた。母は「もっと女性がたくさんいそうな職場のほうが働きやすいのでは?」と提案してくれたが、せっかく大学で化学を研究したので、その経験をこの先も生かしたいと思った。
それで企業展に行ったり、企業の採用ページもいろいろ見たりした。
しかし、そういう「公の場」では、いかにも耳障りの良い言葉しか入ってこない。メリットばかりを謳う。
それはそうだろう。企業としては学生らに魅力的だと思われなくてはいけない。
しかし、世の中、メリットがあれば必ずデメリットもあるはずだ。入社してから「こんなはずじゃなかった」なんて思いはできればさけたいが、「こんなはずじゃなかった」という先輩たちの嘆きの体験談は実によく聞く。
ましてや私が目指す化学工業系は、もともと「男の職場」だったところ。パワハラ、モラハラ、セクハラ、ハラハラが横行しているかもしれないと、妄想の歯止めが効かない。

研修に遭遇

そんな風に、悶々と過ごしていたある日、たまたまタクシーに乗った。乗ってみると、運転席の運転手のほかに助手席にも人がいたので驚いた。運転手の研修中で、横にいたのは教官だという。
その新人運転手は50歳くらいのおじさんで、教官を横に乗せる研修の初日だったのか、とても緊張しているのが、後部座席の私にも伝わってきた。
もしかすると、失業して転職してきたのかもしれない。タクシー運転手をやっている親戚がいて、話を聞いたことがあるが、タクシー業界は人手不足が続いているので、中高年にも就職のハードルは低いそうだ。
とにかく、その新人運転手は「どちらまでですか?」などの言い方もたどたどしく、私から見ても気の毒に思えてしまうくらいだった。
もしかしたら教官が厳しく新人にダメ出しとかするかもしれない。そう思うと、なぜか私も緊張してきた。そういや、親戚のタクシー運転手も「研修はきつかった」と言っていた。

信頼

ところが、教官は必要以上のことは何も言わず、小声で何か指示を出すくらいだった。私も気分が落ち着き、よくよく見てみると車内の雰囲気は決して悪いものではなかった。
目的地に着き、精算するときも新人運転手の口調は相変わらず硬かったが、それでも私は普通に「おもてなし」を受けたような気分でタクシーを降りた。
帰ってから、そのタクシー会社を検索してみたら、採用ページに若い運転手たちのコメントが載っていた。おおむね、研修は厳しいがていねいに教えてくれるから安心といった、当たり障りのない内容だった。
ただ、私はその研修の現場に遭遇した。決して嫌な感じはしなかった。もちろん、お客の私が乗っているのだから、教官もあからさまには厳しい態度も取れなかっただろう。それでも教官と新人のおじさんの間の信頼関係みたいなものは、部外者である私も感じることはできた。
やはり、表面だけ見てみても分からないことはある。現場に行って生の雰囲気を感じないといけない。
それ以来、私の就職活動も変わったと思う。

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