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トラックドライバー 体験談

取れたシートベルト/助手作成資料何ら三冊みたいな謎

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昔ながらの職人気質

先日、80代で大往生を遂げた僕の祖父は、かつてトラック運転手の仕事をしていた。
祖父がまだ若かった昔は、コンプライアンスなんかも今ほどうるさくなく、いわゆる昔ながらのイメージ通りの「荒くれ者」のトラック運転手が多かったそうだ。
なんていうと、いかにも乱暴者の世界のようだが、祖父によれば情に厚い職人気質なのがトラック運転手だったそうだ。
情に厚いので、後輩の面倒見も良かった。もちろん、職人気質なので、手取り足取り教えるというより「見て覚えろ」という世界だったようだけど、それでも新人が一人前になるまで、徹底的に面倒を見た。
そのころは、大学を出てトラック運転手になるという人は少なかったようだが、祖父は中でも知識と教養があり、しかもマメな性格で、その後どこかに紛失したらしいが、毎日、日記もつけていた。
その祖父が教えてくれたのが、Nというトラック運転手のことだ。

マメな新人

Nは祖父が30代後半のころ、運送会社に入社してきた20歳そこそこの新人だった。
今もそうかもしれないが、入社した新人はしばらく、先輩が運転するトラックの助手席に座り、仕事を覚える。Nの指導を仰せつかったのが祖父だった。
Nも祖父と似て、マメな性格でしかも勉強熱心だったようで、ただ漫然と助手席に座っているだけではなく、疑問点は祖父に積極的に質問し、またメモも取って仕事を覚えた。メモは大学ノートに付けていたが、1か月経つころには3冊にもなっていた。
さて、そんなNがそろそろ独り立ちしてもいいかなと、祖父が思っていたころのことだ。あろうことか、祖父はNを助手席に乗せてトラックを運転していて、そのトラックをガードレールにぶつけてしまったのだ。
しかも、しっかりシートベルトをしていたはずのNはトラックのフロントガラスをぶち破り、外に投げ出されてしまった。
しかし、ここから話が変になる。

消えた男

Nが自分の運転のせいで重傷を負ったか、最悪命にも関わる事態に陥ったかもしれない。青ざめた祖父は、幸いにも自分は無傷だったのですぐさま運転席を降り、Nの姿を追った。しかし、Nは影も形もなく消えていた。
その後の事故の処理のことなんかは、祖父ははっきり覚えていないという。消えたNのことを会社で確認したかどうか、会社の人間や警察が探したかどうかさえ、記憶があいまいだったそうだ。
数年後、祖父がふと、同僚に「そう言えば、Nは今ごろ何をしているのかな」と、さりげなくNの話題を振ってみた。だが、誰もが「そんな社員はいなかった」と言うだけだった。
事故の日に姿を消しただけではなく、Nの存在そのものが「なかった」ことになっていた。
祖父はNが、メモしていた大学ノートを、祖父のトラックのダッシュボード横の収納ケースに入れていたことを思い出し、探してみたが、それもなかった。
Nは本当に実在していたのか、祖父はそれも疑ってみたが、祖父の日記にはNのことがきちんと記されていたという。
ただ、それを確かめる手立ても、今はもうない。

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